人間と月

 

月は大変朗らかな性質ですので、人間よりもゆったりと歩みます。

瞬きも大変ゆっくりなので、人間の、立ち上がりから地に伏すまでを、見逃す事も少なくありません。

月が瞬きをすると、閉じる前にあった街が海になっていたりします。

けれど月はいつも一人でしたので、小さな事は気にならないのです。

そんな月は昼を知りませんでした。昼は雲が地球を覆うので見えません。

雲は綺麗な月が涙を流さないように、そっと昼を隠しているのです。

昼は太陽が光り輝くので、地球は月を忘れてしまうからです。

なので、月は夜しか、知りませんでした。人間達の寝静まる夜しか、知りませんでした。

月は人間や動物の安らかな寝息が重なって、暖かくなる夜が大好きでした。

ある時、月が瞬きをすると夜に小さな明かりが生まれました。

とるに足らない小さな光です。

けれど今まで見た事のない光だったので、月はどうしたのだろうと思いました。

月が驚いて瞬きをすると、小さな光は空の星のようにちりばめられていました。

月は一瞬、地球が無くなってしまったのではないかと思いました。

しかし、その光は星のように瞬きません。ただそこに存在するだけの光です。

月がその光を眩しく思い、瞬きをする度に、石像の様に硬い光が増えていきます。

月はだんだん怖くなり、瞬きするのを止めてしまいましたが、間も無く夜は硬い光に犯されてしまいました。

雲はそんな月を哀れに思い、夜も隠さなければと思いました。

しかし、夜の光は雲を擦り抜けて月に届いてしまいます。月が目を閉じて泣いている間にも、夜の光は増すばかりでした。

では、昼はどうなったのでしょう。

何も変化が無かったのでしょうか。

いいえ、そんな事はありません。

昼は、夜よりも意外に姿を変えていました。

雲は話し合い、月が覗ける位の隙間を空ける事にしました。

月はどの位の間泣いていたのか分からないままに隙間を覗きました。

月は、ほんの一時、それが何か分かりませんでした。

月が悲しみに目を閉じてから、太陽は人間の行いを具合が悪いと見て、光を抑えました。

その光も、雲を通して弱くなりました。

雲は、地球全てを覆いましたので、大変薄暗くなりました。

人間は昼にも電灯を点けようとしましたが、

光しかない一日はどこが境目かも分からなかったので、だんだんと拍子が狂い始め、とうとう昼に眠り始めました。

月が初めて見た昼は夜のようでした。

月は、大好きな地球のその様子に、はらはらと涙を零しました。

月の涙は雲を擦り抜け、地球の星になりました。

すると、久々の昼の光に子供が目を覚まし、無邪気に指をさしました。

人間達は次々に起き出し、昼の星空を見上げました。皆が皆、涙を溜めるので、月の涙は一層輝いて見えました。

人間は、本当の夜が恋しくなったのです。

月が人間達に微笑み、ゆっくりと瞬きをすると

暖かい寝息に包まれた昔の夜が戻っていました。